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この道ウン十年の間の釣を考えると大半を黒鯛に捧げた釣りをして来たと思う。ことに産卵を終えた初夏以降の釣は、釣れても釣れなくとも黒鯛を求めての釣りであったと云える。
特に30、40代の釣は一晩にたった一回あるかないかの当りを求めての釣りが多かった。大型の黒鯛の釣では一晩に1〜2回あるかないかの当りが外れれば、それでその日の勝負は終りという釣である。だから毎夕、会社の窓から外の風を見て4〜5mの北西風が出ると黙っていられずむずむずしてくる。家には帰らず、会社から真直ぐに釣具屋へと走って岩マエ2〜3本購入する。陽が落ちてからの1〜2時間が勝負だ。戦場は主に酒田本港の南北の両防波堤である。会社から車に乗れば15分そこそこで釣場に到着する。海に近い当地では休日丸一日かけた釣り等はした事がない。秋田の男鹿や新潟の勝木など遠くへ遠征など、滅多な事でもなければしない。昼休みに海を見に行って、風と潮の具合を見て夕方の風を確認してからでも釣が出来る。
夕方は黒鯛が食事のため岸近くに接岸し、活発に集餌行動をとる。黒鯛の二歳、三歳は3〜7枚、尺物では2〜3枚それ以上は単独行動をする場合が多い。時間や場所によって異なるが、7時から8時の間にかならず周回運動をする。数はいらない。ヘラ竿の改造カーボンの中通し3間半(6.4m)を持って、1〜2回の当たりにすべてをかけてフカセ釣りをする。餌は大きな岩マエの一匹掛け。
時間的な制約と餌が少ないこともあり、かえって釣に集中出来る。竿先に全神経を集中し静かに当りを待つ・・・・。軟らかい竿先が魚の当りに静かに反応する。一回目の当りは必ず餌を口から吐き出すから二回目を待つ。しばらくすると二回目の食い込みに竿先が反応する。そしてまた、口から吐き出す。胸の動悸が聞こえる。直ぐに三回目の食い込み始まる。三回目は激しい食い込みで穂先が水面まで持って行く事もある位の激しい当たりだ。食いの悪い時は二回目の当りでどっかに行ってしまう事もある。逆に食いの良い時は一回から三回目の当りの時間が短い。
ただ、こう云う当りの場合は、せいぜい40cm未満の黒鯛の時が多い。これを超える黒鯛は意外とあたりは小さい事が多い様だ。小魚の当りかなと思っていると急に竿に衝撃が走る。細仕掛けの時などは、それだけでハリスが切れてしまう事が多々ある。それはそれで魚との勝負と云うこだわりで釣っているので、勝負に負けたと云う事で諦めるしかない。それで「又、今度は絶対に・・・!」と闘志が湧いてくる。五十を超えてからの釣は妻に心配だからと夜釣りは止めるように云われここ十年余殆どやっていない。
昨今の防波堤は大型テトラに埋め尽くされ足場が非常に悪い。特に遠近のめがねを使うようになってからは非常に危険でテトラの前面に出て行く釣が出来なくなった。良くテトラから足を踏み外して落ちたという話が聞こえてくる。夜落ちて朝に、漁師の船に助けてもらった釣り人が何人も居る。厳冬期の大型ソイの釣で防波堤から転落して命を落とした人も居る。魚を釣りに行って、命を捨ててはならない。最近は同じ黒鯛一途でも小型黒鯛一途と変わってしまった。
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